りんごのSDGs:規格外りんごの活用法とフードロス削減
はじめに:SDGsとフードロス問題
持続可能な開発目標(SDGs)は、2030年までに貧困をなくし、地球環境を保全し、すべての人々が平和と豊かさを享受できる世界を目指す国際的な目標です。SDGsの目標12「つくる責任つかう責任」では、食料の廃棄を削減し、持続可能な食料システムを確立することが掲げられています。
食料ロス、いわゆるフードロスは、世界中で深刻な問題となっています。日本では、まだ食べられるにもかかわらず廃棄される「食品ロス」が年間約600万トンにも上ると推計されており、そのうち約半分が家庭から、残りが食品製造業、卸売業、小売業、外食産業から発生しています。この食品ロスは、資源の無駄遣いであるだけでなく、焼却処分される際には温室効果ガスの排出にもつながり、地球温暖化を加速させる一因ともなっています。
食料生産には、水、土地、エネルギー、労働力といった多くの資源が投入されます。それらが無駄に廃棄されることは、これらの資源の有効活用という観点からも、SDGsの達成を妨げる大きな要因と言えます。
りんごも例外ではありません。生産過程で、形が不揃いだったり、傷があったり、大きさが規格外であったりするために、市場に出回らずに廃棄されてしまう「規格外りんご」が数多く発生しています。これらを有効活用することは、フードロス削減に大きく貢献するだけでなく、新たな価値を生み出す可能性も秘めています。
規格外りんごの発生原因と現状
規格外りんごとは
「規格外りんご」とは、農産物の等級やサイズ、外観などの基準を満たさないりんごのことです。農家は、市場で高値で取引されるために、厳しい基準を設けてりんごを栽培・選果します。この基準にわずかに満たないだけで、味や品質には全く問題がないにもかかわらず、市場に出荷されずに廃棄の対象となることがあります。
発生原因
- 外観:傷、色ムラ、変形、日焼けあとなど、見た目の基準を満たさないもの。
- サイズ:大きすぎる、小さすぎるなど、規定のサイズから外れるもの。
- 等級:糖度や酸度、果汁量などが基準に達しないもの(ただし、味は良い場合も多い)。
- 収穫時期のずれ:時期尚早、あるいは遅すぎる収穫により、基準から外れるもの。
これらの基準は、消費者の「見た目が美しい」というイメージを重視する傾向や、市場での均一な流通を目的として定められています。しかし、近年では、消費者の意識も変化しつつあり、味や品質を重視する声も高まっています。
現状
残念ながら、多くの規格外りんごは、そのまま廃棄されたり、家畜の餌として利用されたりすることが一般的です。これは、規格外りんごを有効活用するための販路や加工方法が十分に確立されていないという現実があります。農家にとっては、規格外りんごの処理にかかるコストも負担となります。
規格外りんごのSDGsへの貢献:フードロス削減と新たな価値創造
フードロス削減への貢献
規格外りんごを廃棄せずに活用することは、直接的にフードロス削減に繋がります。本来なら食べられるはずのりんごが、形や見た目だけで捨てられるのを防ぐことは、SDGs目標12の達成に不可欠です。
新たな価値創造
規格外りんごは、そのまま生食として流通させることは難しくても、加工することで新たな価値を生み出すことができます。
- 加工品への転用:
- りんごジュース:規格外りんごは、ジュースの原料として最適です。味や香りはそのままに、大量のりんごを無駄なく活用できます。
- ジャム・コンポート:煮詰めることで、見た目の問題は解消され、甘みや酸味を活かした製品になります。
- ドライフルーツ:乾燥させることで、長期保存が可能になり、おやつや料理の材料として利用できます。
- 焼き菓子・スイーツ:アップルパイ、マフィン、ケーキなどの材料として、味の良さを活かせます。
- シードル(りんご酒):発酵させることで、風味豊かなお酒になります。
- 地域特産品としての展開:
- 教育・啓発活動:
地域ごとに規格外りんごを活用した加工品を開発し、地域ブランドとして展開することで、地域経済の活性化にも繋がります。
規格外りんごの活用事例を広めることで、消費者や生産者に対するフードロス問題への意識向上を促すことができます。学校給食やイベントなどで、規格外りんごを使ったメニューを提供することも有効な手段です。
規格外りんごの活用事例と今後の展望
具体的な活用事例
近年、規格外りんごを活用する動きが各地で見られます。
- 農家直売所・ECサイトでの販売:
- 加工業者との連携:
- クラウドファンディングやサブスクリプション:
- 学校給食や福祉施設での活用:
「見た目は悪いが味は良い」ことをアピールし、安価で販売する動きがあります。オンラインストアでも、規格外品として販売されるケースが増えています。
りんごジュースメーカーや菓子メーカーなどが、規格外りんごを積極的に仕入れ、加工品を製造しています。これにより、農家は廃棄コストを削減でき、加工業者は安価な原料を確保できます。
規格外りんごを有効活用するプロジェクトに対し、支援を募る動きも出てきています。定額制で定期的に規格外りんごやその加工品が届くサービスも人気を集めています。
食材費の節約とフードロス削減を両立する取り組みとして、規格外りんごが活用されています。
今後の展望
規格外りんごの活用は、今後さらに進展していくと考えられます。
- 技術開発とイノベーション:
- 消費者意識の変化:
- 行政やNPOの支援:
- 生産者と消費者の連携強化:
保存技術の向上や、新たな加工技術の開発により、規格外りんごの活用範囲はさらに広がるでしょう。例えば、アップサイクル製品への応用なども考えられます。
「もったいない」という意識や、サステナブルな消費への関心が高まるにつれて、規格外品への需要も増加していくと予想されます。
規格外りんごの流通促進や加工支援に関する制度や補助金が拡充されれば、より多くの取り組みが生まれる可能性があります。
生産者が規格外りんごの活用方法を模索し、消費者がそれを理解し、購入・消費することで、持続可能な循環型社会の実現に貢献できます。
まとめ
りんごの規格外品は、単なる「B級品」ではなく、フードロス削減というSDGsの目標達成に貢献する大きな可能性を秘めた資源です。見た目や規格にとらわれず、その「味」や「栄養」に焦点を当てることで、ジュース、ジャム、ドライフルーツなど、多岐にわたる加工品へと生まれ変わります。
農家、加工業者、消費者、そして行政が一体となって、規格外りんごの活用を推進していくことが重要です。このような取り組みは、地球環境の保全に貢献するだけでなく、地域経済の活性化や新たなビジネスチャンスの創出にも繋がります。
私たちは、普段何気なく手に取るりんごが、どのように生産され、どのような過程を経て私たちの元に届くのかを意識し、規格外品であってもその価値を理解し、積極的に選択していくことが求められています。それは、未来の世代のために、より良い地球環境を残していくための、私たち一人ひとりができる具体的な行動なのです。
