いも類の「変色」:調理中の褐変を防ぐ 3 つの工夫
いも類は、でんぷん質を豊富に含み、私たちの食卓に欠かせない食材です。しかし、調理中に起こる「変色」、特に褐変(かっぺん)は、見た目の悪さから料理の魅力を損なうことがあります。この褐変は、いも類に含まれるポリフェノール類が、空気中の酵素(ポリフェノールオキシダーゼ)の働きによって酸化され、メラニン色素を生成することによって起こります。これは、りんごやバナナなどの果物にも見られる現象です。
しかし、いくつかの工夫をすることで、この調理中の褐変を効果的に防ぐことが可能です。ここでは、いも類の調理における褐変を防ぐための3つの主要な工夫について、そのメカニズムと具体的な方法を詳しく解説します。
1. 酵素の働きを阻害する:酸・熱・亜硫酸塩の活用
褐変の主な原因は、酵素の働きです。そのため、この酵素の働きを阻害することが、褐変を防ぐ最も直接的な方法となります。
1.1. 酸による酵素の不活性化
酵素は、特定のpH条件下で最も活発に働きます。多くのポリフェノールオキシダーゼは、中性から弱アルカリ性の環境で活性が高まりますが、酸性の環境下ではその活性が著しく低下します。
- 具体的な方法:
- 酢水(お酢と水)やレモン汁(レモン汁と水)に浸ける:皮をむいたいも類を、薄い酢水(水1リットルに対して大さじ1〜2杯程度のお酢)やレモン汁(水1リットルに対して大さじ1〜2杯程度のレモン汁)に短時間(数分〜10分程度)浸け置きます。これにより、いも類の表面に酸が浸透し、酵素の働きを抑えることができます。
- 調理の際に酸性の調味料を加える:煮物や炒め物などの調理の際に、酢やレモン汁、トマトなどの酸味のある食材を少量加えることも効果的です。
注意点:あまり長時間浸けすぎると、いも類の風味が損なわれたり、食感が悪くなったりする可能性があります。また、酸が強すぎると、いも類が溶けてしまうこともありますので、薄めの溶液から試すのが良いでしょう。
1.2. 熱による酵素の失活
酵素はタンパク質であり、高温にさらされることでその構造が変化し、活性を失います。これは「失活」と呼ばれます。
- 具体的な方法:
- 下茹で(ブランチング):皮をむいたいも類を、沸騰したお湯に短時間(1〜2分程度)さっと茹でます。これにより、いも類表面の酵素が熱で失活し、その後の調理での褐変を抑えることができます。
- 蒸す:蒸す調理法も、同様に酵素を失活させる効果があります。
注意点:茹で時間が長すぎると、いも類のでんぷん質が糊化しすぎてしまい、食感が悪くなることがあります。また、茹で汁に栄養素が溶け出す可能性も考慮しましょう。
1.3. 亜硫酸塩による酵素の阻害(注意が必要)
亜硫酸塩は、食品の酸化防止剤として広く利用されており、酵素の働きを阻害する効果も持っています。
- 具体的な方法:
- 乾燥野菜の加工:一部の乾燥野菜の製造工程では、亜硫酸塩が使用されることがあります。
注意点:亜硫酸塩は、アレルギー反応を引き起こす可能性があるため、摂取量には注意が必要です。また、日本国内では、食品添加物としての使用が厳しく規制されています。家庭での調理においては、亜硫酸塩の使用は一般的ではなく、前述の酸や熱による方法が推奨されます。
2. 酸化を抑制する:酸素との接触を断つ
褐変は酸化反応であるため、酸素との接触を極力避けることも有効な手段です。
- 具体的な方法:
- 水に浸けておく:皮をむいたいも類は、空気に触れるとすぐに酸化が始まります。そのため、切った後はすぐに水、または薄い塩水(水1リットルに対して塩小さじ1/2杯程度)に浸けておきます。これにより、いも類表面が水で覆われ、酸素との接触が遮断されます。
- ラップで密閉する:切ったいも類を保存する際には、空気が入らないようにラップでしっかりと包むか、密閉容器に入れて冷蔵庫で保存します。
- 油でコーティングする(一部の調理法):揚げる直前のいも類に少量の油をまぶすことで、表面が油でコーティングされ、酸素との接触を一時的に遮断する効果が期待できます。
注意点:水に浸けすぎることで、いも類のでんぷん質が水に溶け出し、調理後の食感が水っぽくなることがあります。また、水から取り出した後は、速やかに調理するようにしましょう。
3. 褐変を遅らせる・目立たなくする:調理方法の工夫
直接的に褐変を防ぐだけでなく、調理方法を工夫することで、褐変が起こりにくくなったり、起こっても目立たなくなったりします。
- 具体的な方法:
- 皮ごと調理する:じゃがいもやさつまいもなど、皮ごと調理できるいも類は、皮が酸化を防ぐバリアの役割を果たします。
- 加熱調理を迅速に行う:皮をむいたいも類は、切ったらできるだけ早く調理に入りましょう。
- 揚げる・炒めるなどの高温調理:高温で短時間で調理することで、酵素が失活する前に火が通り、褐変が進行する前に調理が完了します。
- 煮込み料理:煮込み料理では、いも類が長時間水分に浸かった状態になり、酸素との接触が少なくなるため、比較的褐変が起こりにくい傾向があります。
- 素揚げにする:素揚げにしたいも類は、表面がカリッとしており、褐変が目立ちにくい場合があります。
まとめ:
いも類の調理における褐変は、酵素の働きと酸化反応によって引き起こされます。この褐変を防ぐためには、「酵素の働きを阻害する(酸・熱・亜硫酸塩)」「酸化を抑制する(酸素との接触を断つ)」「褐変を遅らせる・目立たなくする(調理方法の工夫)」の3つのアプローチが有効です。
家庭での調理においては、酢水やレモン汁に浸ける、短時間の下茹で(ブランチング)、そして切った後はすぐに水に浸けておくといった方法が、手軽で効果的です。これらの工夫を取り入れることで、いも類をより美しく、美味しく調理することができます。
また、いも類の種類によっても褐変のしやすさは異なります。一般的に、でんぷん質の多い品種ほど褐変しやすい傾向があります。それぞれのいも類の特徴を理解し、適切な調理法を選択することも大切です。
これらの知識と実践的な工夫を組み合わせることで、いも類の調理における褐変という悩みを解消し、より豊かな食卓を彩ることができるでしょう。
