いも類のアレルギー:種類別アレルゲンと注意すべきこと
いも類アレルギーの概要
いも類は、私たちの食卓に欠かせない食材ですが、中にはいも類に対してアレルギー反応を示す人もいます。いも類アレルギーは、特定のいも類に含まれるタンパク質が原因で起こり、軽度な症状から重度なアナフィラキラシーショックまで、様々な症状を引き起こす可能性があります。いも類アレルギーは、他の食品アレルギーと比較して頻繁に報告されるものではありませんが、一度発症すると日常生活に大きな影響を与えることがあります。特に、離乳食などで初めていも類を与える際には、注意が必要です。
いも類の種類とアレルゲン
いも類と一口に言っても、その種類は多岐にわたります。ここでは、代表的な「いも類」と、それぞれに含まれる可能性のあるアレルゲンについて説明します。いも類は、主に地下にできる根や茎、塊茎などを食用とする植物の総称であり、それぞれ異なる種類のタンパク質を含んでいます。
じゃがいもアレルギー
じゃがいもは、世界中で最も広く消費されているいも類の一つです。じゃがいもアレルギーの原因となる主なアレルゲンは、パタチンというタンパク質です。パタチンは、じゃがいもの貯蔵タンパク質であり、加熱によっても分解されにくい性質を持っています。そのため、生で食べるだけでなく、調理されたじゃがいもを食べてもアレルギー症状が出ることがあります。また、じゃがいもに含まれるキチナーゼという酵素もアレルゲンとなることがあります。キチナーゼは、植物の細胞壁を分解する働きを持ち、アレルギー反応を引き起こすことがあります。
じゃがいもアレルギーの症状としては、口の中の痒みや腫れ、じんましん、腹痛、嘔吐、下痢などが一般的です。まれに、呼吸困難や血圧低下などのアナフィラキシーショックを引き起こすこともあり、注意が必要です。
さつまいもアレルギー
さつまいもは、甘くて栄養価が高いことから人気のあるいも類です。さつまいもアレルギーの原因となるアレルゲンは、主にストレージプロテインやイムノクロマトグラフィーなどのタンパク質が考えられています。これらのタンパク質は、さつまいも自体に含まれており、人によってはアレルギー反応を引き起こす可能性があります。さつまいもアレルギーの症状も、じゃがいもアレルギーと同様に、口の痒み、じんましん、消化器症状などが挙げられます。
ただし、さつまいもアレルギーの報告は、じゃがいもアレルギーに比べて少ない傾向にあります。これは、さつまいもに含まれるアレルゲンタンパク質の構造や、日本人の食文化におけるさつまいもの摂取頻度などが関係している可能性があります。
里芋(サトイモ)アレルギー
里芋は、ぬめり気と独特の食感が特徴的ないも類です。里芋アレルギーの原因アレルゲンとしては、プロテアーゼインヒビターや、その他の植物由来のタンパク質が関与している可能性があります。里芋のぬめりの原因となる物質にも、アレルギー反応を引き起こす可能性が指摘されています。里芋アレルギーの症状としては、口や喉の刺激感、痒み、腫れ、皮膚の発疹などが現れることがあります。特に、素手で里芋を扱う際に、皮膚のかぶれやかゆみを感じる人もいます。
里芋は、加熱してもアレルゲン性が完全に消失しない場合があるため、注意が必要です。生で食べることはほとんどありませんが、調理方法によってはアレルギー反応のリスクが残る可能性があります。
山芋(ヤマイモ)アレルギー
山芋(長芋、大和芋、つくね芋など)は、すりおろして食べることが多い、消化に良いとされるいも類です。山芋アレルギーの原因アレルゲンとしては、ムチンや、その他に特定のタンパク質が関与していることが考えられます。山芋のぬめり成分であるムチンには、アレルギー誘発性がある可能性が指摘されています。山芋アレルギーの症状としては、口や喉の痒み、腫れ、イガイガ感、皮膚の紅斑、かゆみなどが生じやすい傾向があります。山芋を扱う際に、手がかゆくなったり、赤くなったりする人もいます。
山芋は、生で食べることが多いため、アレルゲンに直接触れる機会が多く、症状が出やすい場合もあります。山芋の加工品(とろろそば、お好み焼きのつなぎなど)にも注意が必要です。
その他のいも類アレルギー
上記以外にも、こんにゃくいも(こんにゃくの原料)、こんにゃく芋には、シュウ酸カルシウムの結晶が含まれており、これが口や喉の刺激、かゆみの原因となることがあります。これは厳密にはタンパク質アレルギーではありませんが、接触性皮膚炎のような症状を引き起こすことがあります。こんにゃく芋そのものを食べることは稀ですが、こんにゃくの製造過程や、こんにゃく芋を扱う際には注意が必要です。
また、タピオカの原料となるキャッサバ(マンジョウカ)にも、シアン化合物が含まれており、これがアレルギー様症状を引き起こす可能性が指摘されています。しかし、一般的に流通しているタピオカ製品は、これらの有害物質が除去されているため、アレルギーのリスクは低いと考えられています。
いも類アレルギーの症状
いも類アレルギーの症状は、アレルゲンとなるいも類の種類、摂取量、個人の感受性などによって異なります。一般的に見られる症状は以下の通りです。
- 口や喉の症状: 口の中の痒み、腫れ、ピリピリ感、イガイガ感、声のかすれ。
- 皮膚の症状: じんましん、かゆみ、赤み、湿疹。
- 消化器症状: 腹痛、吐き気、嘔吐、下痢。
- 呼吸器症状: 鼻水、くしゃみ、咳、息苦しさ、喘鳴。
- 全身症状: めまい、倦怠感、血圧低下、アナフィラキシーショック(重症の場合)。
特に、口や喉の症状は、いも類アレルギーで比較的多く見られます。これは、口腔アレルギー症候群(OAS)と呼ばれるもので、植物性の食品に含まれるアレルゲンタンパク質が、花粉のアレルゲンタンパク質と構造が似ているために起こると考えられています。花粉症の人が、いも類を食べた際に同様の症状を呈することがあります。
注意すべきことと対策
いも類アレルギーと診断された場合、またはその疑いがある場合は、以下の点に注意し、適切な対策を講じることが重要です。
原因食物の除去
最も基本的な対策は、アレルギーの原因となっているいも類を食事から完全に除去することです。原因となるいも類を特定するためには、医師の指導のもと、アレルギー検査(血液検査や皮膚テストなど)を受けることが推奨されます。
加工食品への注意
いも類は、様々な加工食品に使用されています。例えば、ポテトチップス、ポテトサラダ、コロッケ、ポテトフレーク、ポテトピューレ、ポテトスターチ、いも焼酎、さつまいもを使った菓子類、山芋を使ったとろろそばやとろろご飯、お好み焼きのつなぎなどです。これらの加工食品の原材料表示を注意深く確認し、アレルギーの原因となるいも類が含まれていないかを確認することが重要です。外食時や、他者から食品を提供される際にも、原材料について確認することが大切です。
交差反応
いも類アレルギーでは、特定のいも類にアレルギーがある場合、構造が似た他の食品(他のいも類、植物など)に対してもアレルギー反応(交差反応)を起こす可能性があります。例えば、じゃがいもアレルギーの人が、トマトやバナナ、ラテックスなどにもアレルギー反応を示すことがあります。これは、これらの食品に含まれるアレルゲンタンパク質の構造が、じゃがいものアレルゲンタンパク質と似ているためです。交差反応については、医師に相談し、注意すべき食品リストを作成してもらうと良いでしょう。
調理方法
いも類アレルギーの原因となるタンパク質は、加熱しても完全に分解されない場合が多いですが、調理方法によってはアレルゲン性が低下する可能性も示唆されています。しかし、アレルギー症状が出やすい方は、加熱調理であっても避けるべきです。アレルギーの程度によっては、加熱することで症状が軽減される場合もありますが、自己判断は危険です。医師の指示に従い、安全な調理方法を検討してください。
アナフィラキシーへの備え
いも類アレルギーは、重症化するとアナフィラキシーショックを引き起こす可能性があります。アナフィラキシーは、命に関わる重篤なアレルギー反応であり、迅速な対応が必要です。アレルギー症状が出た場合は、すぐに医療機関を受診してください。アナフィラキシーの既往がある場合は、エピネフリン自己注射薬(エピペン®など)の携帯や、緊急時の対応方法について、医師から十分な指導を受けることが不可欠です。
離乳食での注意
赤ちゃんに初めていも類を与える際は、少量から開始し、赤ちゃんの様子を注意深く観察することが重要です。アレルギー体質が疑われる場合や、家族にアレルギー歴がある場合は、医師や管理栄養士に相談してから離乳食を進めましょう。
まとめ
いも類アレルギーは、じゃがいも、さつまいも、里芋、山芋など、様々な種類で起こり得ます。アレルゲンとなるタンパク質は種類によって異なり、症状も多岐にわたります。原因食物の除去が基本となりますが、加工食品の原材料表示の確認、交差反応への注意、そして万が一のアナフィラキシーへの備えが重要です。いも類アレルギーの疑いがある場合は、必ず医師の診断を受け、適切な指導と対策を講じるようにしましょう。早期発見と適切な管理により、安全で健康的な食生活を送ることが可能です。
