りんごの「病気」:りんごが発症しやすい病気と対策

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りんごの病気:罹患しやすい病気と対策

りんごは、その美味しさから世界中で愛される果物ですが、栽培においては様々な病気のリスクに晒されます。病気にかかると、果実の品質低下はもちろん、樹勢の衰退や枯死に繋がることもあります。ここでは、りんごが罹患しやすい代表的な病気とその対策について、詳しく解説します。

主要なりんごの病気とその症状

1. 黒星病(くろぼしびょう)

黒星病は、りんごの最も代表的で、かつ被害が大きい病気の一つです。主に葉、果実、枝に症状が現れます。

  • 症状:
    • 葉:最初に油膜状の病斑が現れ、次第に円形または不整形な黒褐色の斑点となり、中央部は灰色っぽく、縁は黒くなります。病斑が多数発生すると葉は黄化し、早期落葉します。
    • 果実:初期には油膜状の病斑ですが、次第に直径1~1.5cm程度の円形または不整形な黒褐色の病斑に発達します。病斑はコルク化してひび割れ、果実の肥大を阻害し、商品価値を著しく低下させます。
    • 枝:若い枝には、楕円形または紡錘形をした黒褐色の病斑が形成され、冬を越すための越冬源となります。
  • 発生時期:春の展葉期から秋にかけて発生し、特に梅雨時期や秋雨前線による多雨・多湿条件で多発します。

2. うどんこ病

うどんこ病も、りんごの葉や新梢に被害をもたらす病気です。その名の通り、葉の表面に白い粉を吹いたような症状が特徴です。

  • 症状:
    • 葉:初期には葉の表面に白い粉状のかびが生じ、次第に広がり、葉全体が白くなります。葉は縮れたり、黄化したり、早期落葉することもあります。
    • 新梢:新梢にも同様に白い粉状のかびが生じ、生育が悪くなり、ひどい場合は枯死することもあります。
    • 果実:果実への直接的な被害は少ないですが、葉の光合成能力が低下するため、間接的に果実の肥大や着色に影響を与えることがあります。
  • 発生時期:春の萌芽期から初夏にかけて、特に乾燥しやすく、気温が比較的高く(20℃前後)、日照が少ない時期に発生しやすくなります。

3. 晩腐病(おそぐされびょう)

晩腐病は、果実の収穫期前後から収穫後に発生し、甚大な被害をもたらす病気です。果実の腐敗だけでなく、枝枯れを引き起こすこともあります。

  • 症状:
    • 果実:果実の軸付近や傷口から侵入し、初期には水浸状の病斑として現れます。次第に病斑は拡大し、灰褐色のカビ(分生子)を胞子状に形成します。病斑は果肉の奥深くまで進行し、果実全体が腐敗して乾燥し、ミイラ化することもあります。
    • 枝:枝にも病斑が現れ、進行すると枝枯れを引き起こすことがあります。
  • 発生時期:梅雨期から秋にかけて、多湿条件で発生しやすく、特に収穫間近の果実が被害を受けやすいです。

4. 炭疽病(たんそびょう)

炭疽病は、果実の表面に特徴的な病斑を形成する病気です。初期症状が分かりにくいため、見逃されることもあります。

  • 症状:
    • 果実:夏場から秋にかけて、果実の表面に直径1cm程度の円形でややへこんだ病斑が現れます。病斑の中央部は灰白色になり、その周りは黒褐色の輪紋を形成します。病斑の表面には、黒褐色の小粒(病原菌の胞子器官)が輪紋状に並ぶことがあります。貯蔵中にも病斑が拡大し、果肉を腐敗させることがあります。
  • 発生時期:高温多湿条件で発生しやすく、特に夏場の降雨後に多発します。

5. 枝枯病(えだがれびょう)

枝枯病は、りんごの樹勢を著しく弱め、最終的には枯死に至らしめる深刻な病気です。複数の病原菌が関与することがあります。

  • 症状:
    • 枝:枝や幹に、初めはややへこんだ灰白色~灰褐色の病斑が現れ、次第に病斑は拡大し、落葉した跡や傷口から侵入して樹皮を枯らしていきます。病斑の境界は明瞭で、しばしば赤褐色になります。病斑が枝の周りを一周すると、その先端部は枯死します。
  • 発生時期:冬場の低温期や、春先の萌芽期、収穫後の秋口など、樹勢が低下しやすい時期に発生しやすくなります。

病気発生の要因と予防策

りんごの病気は、病原菌の存在だけでなく、環境条件や栽培管理が複雑に絡み合って発生します。病気を効果的に防ぐためには、これらの要因を理解し、総合的な対策を講じることが重要です。

1. 病原菌の伝染源対策

  • 越冬病原菌の除去:前年に病気に罹患した枝葉や果実には、病原菌が越冬します。これらを畑から持ち去り、焼却または適切に処分することで、翌年の発生源を減らすことができます。特に黒星病の枝病斑や晩腐病の枝枯れ部分は、重要な越冬源となります。
  • 雑草管理:畑に生い茂る雑草は、病原菌の発生源となったり、湿度を高めたりする原因になります。定期的な除草を行い、畑を清潔に保つことが大切です。

2. 環境条件の改善

  • 通風・採光の促進:枝葉が密生しすぎると、畑の通風や採光が悪くなり、湿度が高まります。適切な剪定を行い、枝葉の密度を調整することで、病気の発生を抑制できます。
  • 排水対策:畑の排水が悪いと、根腐れを起こしやすくなり、樹勢が低下します。これにより病気に対する抵抗力が弱まります。排水性の良い土壌管理や、必要に応じて排水施設の整備を行います。

3. 栽培管理

  • 適切な施肥管理:過剰な窒素肥料は、枝葉を軟弱にし、病気にかかりやすくします。樹勢を見ながら、バランスの取れた施肥を心がけましょう。
  • 傷つけない管理:病原菌は、傷口から侵入することが多いため、収穫時や管理作業中に果実や枝を傷つけないように注意します。

防除対策:薬剤散布とその他の方法

病気の発生を未然に防ぐ、あるいは発生初期に食い止めるためには、適切な防除対策が不可欠です。主に薬剤散布が中心となりますが、それ以外の方法も有効です。

1. 薬剤散布

病気の予防には、発生時期に合わせて適切な薬剤を散布することが最も効果的です。ただし、薬剤の散布は、抵抗性の発達を防ぐため、系統の異なる薬剤をローテーションで使用することが推奨されます。

  • 黒星病:展葉期から梅雨時期にかけて、数回に分けて薬剤散布を行います。雨が多くなる時期には、雨に強い薬剤の選択も重要です。
  • うどんこ病:萌芽期から初夏にかけて、特に乾燥しやすい時期に発生を警戒し、必要に応じて薬剤散布を行います。
  • 晩腐病:梅雨期から秋にかけて、多湿条件が続く時期に重点的に散布します。収穫間近の果実への散布には、安全性の高い薬剤を選択する必要があります。
  • 炭疽病:夏場から秋にかけて、雨が続く時期に予防散布を行います。
  • 枝枯病:冬場の休眠期に石灰硫黄合剤などを散布することで、越冬病原菌を減らす効果が期待できます。

注意点:薬剤散布は、必ず登録されている農薬を使用し、使用方法や使用時期を厳守してください。また、散布する際は、風向きや周辺環境に配慮し、安全に十分注意して作業を行ってください。

2. その他の防除方法

  • 生物農薬の利用:微生物を利用した生物農薬は、環境への負荷が少なく、抵抗性の発達も遅いため、化学農薬との併用や代替として注目されています。
  • 抵抗性品種の導入:病気に強い品種を選ぶことも、長期的な病害対策として有効です。ただし、抵抗性品種であっても、病原菌の種類や環境条件によっては罹患する可能性はあります。

まとめ

りんごの病気は多岐にわたり、それぞれ異なる発生要因と対策が必要です。病気の発生は、一度始まると急速に広がる恐れがあるため、日頃からの観察と早期発見・早期防除が何よりも重要です。剪定による通風・採光の改善、適切な施肥管理、そして病原菌の伝染源対策といった基本的な栽培管理を徹底することが、病気に強いりんご栽培の礎となります。さらに、発生時期や気象条件に応じて、薬剤散布を計画的に行うことで、被害を最小限に抑えることが可能です。病気と向き合い、これらの対策を継続的に実施することで、健康で美味しいりんごの収穫に繋がるでしょう。